大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)43号 決定
本件抗告申立の理由は別紙即時抗告の申立と題する書面に記載したとおりである。
先ず、抗告人等は、村井執行吏は本件仮処分執行に当り目的家屋内にある抗告人等所有物件中当時国税及び府税の滞納により差押を受けその保管を命ぜられていた動産類を、その旨を知悉しながら、敢て屋外に搬出してその大半を紛失させたから、その執行は不法であると主張するけれども、本件のような家屋明渡断行の仮処分執行に際しては、執行吏は、家屋に対する仮処分債務者の占有を解くため、債務者が他より差押を受け保管を命ぜられている債務者所有動産類を、その旨を知りながら屋外に搬出し、その結果仮に右物件が紛失するに至つたとしても、右搬出行為そのものが違法な執行であるといえないと解すべきことは、原決定の理由中に説示してあるとおりであるから、右説示をここに引用する。従つて抗告人等の右主張は理由がない。
次に、抗告人等は、本件仮処分執行は執行裁判所の許可なくしてなした夜間執行であるから違法であると主張するけれども、甲第二号証(仮処分調書写)の記載、原審調書に現れた証人村井八十八、同谷口吉春の各証言及び相手方本人尋問の結果を総合すると、本件仮処分執行は昭和二八年一〇月二四日午後四時四分執行に着手し、甲第一三号証(京都新聞写)によつて認められる同日の日没時である午後五時一〇分より前の午後四時四五分に終了したことを一応認めることができるのであつて、ただ本件家屋の屋根の上に掲げてあつた看板の撤去作業が夜間になされたことは当事者間に争のないところであるが、原審調書に現れた前記村井証人の証言によると、右撤去は執行吏の指図によつてなされたものではなく、従つて執行々為に属していないことをうかがうことができる。原審調書に現れた証人浅田博巳、同浅見澄子、同浅見利男の各証言及び抗告人青木義照本人尋問の結果のうち右認定に反する部分はたやすく信用できないし、他に右認定を覆えすに足りる資料は記録上見当らない。そうだとすると、無許可の夜間執行を前提とする抗告人等の右主張は採用できない。
更に、抗告人等は、村井執行吏は本件執行に当り仮処分債務者である抗告人等において何らの抵抗も示さず又示すおそれもないのに、抗告人側の雇人に対して威力を用い不法に殴打等の暴行を加えて傷害を与えたのであるから、本件仮処分執行々為は不法な執行として民訴五四四条一項によりその排除取消を求めることができると主張するけれども、執行吏が執行に当り抵抗を受けないにもかかわらず債務者の雇人に対し不法に殴打する等の暴行を加えて傷害まで与えるというような行為は純然たる犯罪行為であつて、もとより許しがたい行為ではあるが、右のような行為はたとえそれが執行中に行われたにせよあくまで執行々為そのものでないのは勿論そのために執行々為そのものまでが不法となるという筋合のものとも考えられないから、これをもつて執行々為にかしがあるとして民訴五四四条一項によつて執行の排除取消を求める理由となしがたいものと解する。従つてこの点の抗告人の主張も理由がない。
以上の次第であるから、抗告人等の本件仮処分執行方法に関する異議の申立を棄却した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴九五条、八九条を適用して主文のとおり決定をする。
(裁判官 林平八郎 竹中義郎 入江菊之助)
即時抗告の申立
(当事者の表示および前文省略)
原決定の表示
本件申立はこれを棄却する。
申立費用は申立人等の負担とする。
抗告の趣旨
原決定を取消す。
相手方が京都地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第五四九号執行力ある仮処分決定正本に基いて昭和二十八年十月二十四日、同庁執行吏村井八十八に委任して抗告人両名に対する仮執分執行として抗告人両名の占有していた別紙目録<省略>掲記の物件につきなした仮処分執行はこれを許さない。
という御裁判を求める。
抗告の理由
一、抗告人の事実上及法律上の主張は原決定の「理由」中「一、申立の要旨」掲記と同一である。
二、原決定は左記事由により、事実認定及法律の解釈を誤つているから、その取消を求めるため本抗告に及んだ、即ち
(イ) 村井執行吏は原決定にも認定したように本件仮処分執行をなすにあたり目的家屋内にある抗告人等所有物件中当時国税及府税の滞納により差押を受けその占有が国及京都府に移転し抗告人等において、その保管を命ぜられていた動産類をその旨を知悉しながら敢て屋外に搬出してその大半を紛失させたものでその執行は明白に不法なものであるから取消を免れない。民事訴訟法第五四四条所定の執行方法の異議の原因は不法な執行処分その他不法な執行々為の実施である換言すれば強制執行をなすの手続時間場所目的物、執行原因に関して法律の規定に違反した執行機関の行為である(板倉博士、義海一〇五三頁以下、山田博士法叢一八巻三号一六二頁以下評論一六巻等)原決定は「村井執行吏が差押を受け抗告人等において保管を命ぜられていた動産類を、その旨を知悉しながら屋外に搬出したとしても違法ではない、この場合犯罪が成立し、又は損害賠償責任が生ずる場合があるとしても、本件家屋明渡の仮処分執行々為の効力は消長を及ぼさない」と判示しているのは、前掲民事訴訟法第五四四条の法意を無視した暴論であつて到底承服はできない、同条は右のように不法な執行の為に排除を求める不服申立方法を規定したものであるから本件のような差押の事実を無視した執行々為は当然これに適合するもので原決定は取消さるべきである。
(ロ) 本件執行は抗告人等の異議を無視して、しかも執行裁判所の許可なくして行われた夜間執行であるから、当然取消さるべきである。
原決定は本件仮処分執行は午後四時四十五分以前に終了したものと判示して甲第二号証の記載証人村井八十八、同谷口吉春の各証言及相手方本人訊問の結果を採用しているが、本抗告書添付の疏第十四号証、同第十五号証、(いずれも新聞)に記載せられたように、証人村井執行吏は、多額の金品を収受して常習的に家屋明渡等の強制執行をなしているものであり、証人谷口は家明専門の人夫頭で村井執行吏といつも行動を共にしているものであつて、その証言は到底措信できないものである。
殊に原決定は「尚屋根の上に掲げてあつた看板の撤去作業が夜間(午後八時半頃………そのとき執行吏、人夫等も現場に残存していた)になされた事実を認定しながら、右撤去作業が執行々為の内容には属しない」と判示して、その理由を村井執行吏の証言によれば右撤去は執行吏の差図によりなされたものでなく。
従つて執行々為の内容に属しないことが認められ………」と判示している。
然れども村井執行吏の証言に信を措くことができないことは既述の如く疏第十四号証、同第十五号証、同第十六号証の記載によつて明白なように、本件執行々為自体も現に、京都地方検察庁において捜査中であり、更に次の事由によつても原決定の認定の不当なことが自ら明白となる。即ち
(a) 証人浅田博巳、同浅見澄子、同浅見利男の各証言及抗告人青木、相手方本人訊問の結果を綜合すると執行吏は日没寸前に前田弁護士(疏第十四号証、同第十六号証に記載せられたM弁護士というのがこれにあたる)と三十数人の人夫及相手方の雇人十名程を指揮して本件家屋の仮処分執行に着手し、その執行が終了したのは日没後の六時以後でありこの点だけでも夜間執行であることが認められる、仮に百歩を譲つて甲第二号証の調書を作成したときが日没前であつたと仮定してもそのときに執行吏の任務は完全に終了したこととなる筈であるにもかゝわらず右執行吏はその後四、五時間も右執行現場に人夫と共に残存して夕食等の饗応を受け、しかも午後八時三十分頃に次述のように一番問題となつている屋上の看板三枚の撤去に立会していたことが認定できる。
この様な行為は客観的に見て明白な執々行為自体であるにもかゝわらず原決定は相手方の「看板は相手方の所有であり撤去の行為は執行吏の執行々為終了後これとは無関係に相手方が自らなしたものである………」という主張を容れて上記のように認定したもので明白に事実認定及採証の法則を無視している。
(b) 更に抗告人青木及相手方本人訊問の各結果を綜合すると右問題の看板三枚は昭和二十八年十月一日頃その頃抗告人青木及相手方本人が本件家屋に同居していた際右抗告人の不在中を奇貨として相手方が無断撤去をなしたところ抗告人が帰宅後、右撤去は怪しからんと抗議して再びこれらを屋上に掲げた事実が認められ、しかも疏第七号証の一、二及疏第十七号証以下(後に提出)により、右看板の所有権は抗告人等が本件家屋の前経営者の訴外布浦茂と共有持分として有していたものであることが明白であり、しかも当時抗告人等は本件家屋内に居住して右看板については占有権を有していたことが認定できる。
しかるに原決定は執行終了後に相手方がその所有権に基いて任意撤去した如く従つて執行々為の内容に属しないかのように認定しているがこのようにその占有自体が最も争われている看板の撤去作業は明白に執行々為の内容自体を形成するもので本件仮処分決定を申請した要旨はその点にあるのであるから原決定はその事実認定及法律上の解釈を誤つたものと云わねばならない。
(ハ) 原決定は「判断(ハ)」において、
「右執行実施中抗告人等の雇人等が暴行障害をうけた事実は抗告人提出の証拠により充分認められ、その他抗告人等主張のような犯罪行為が或はあつたかも知れない。
併しながらそれはいずれも刑事上の問題であつて本件執行々為取消の原因とはならないと考える」と判示しているが右は法律の解釈を誤つたものである。
民事訴訟法第五三六条は債務者の「抵抗を受ける場合においては執行吏は威力を用い且警察上の援助を求むることを得」と規定して、債務者側が何ら抵抗を示さないときは執行吏の強力使用権を否定している。なお前述のように同法第五四四条は不法な執行々為の排除取消を求める不服申立権を債務者その他利害関係人に与えたものである。
そうすると、不法な執行々為があつたとして債務者等がその排除取消を執行裁判所に申立てたとき、同裁判所は右執行々為が不法であると認めたときは必らずこれを取消さねばならないのである。
然るに原決定は、右述のように、抗告人等が何らの抵抗も示さず又示す虞れもないにもかゝわらず抗告人側の雇人に対して不法に殴打等の暴行傷害を加えた事実このことは証人浅田博巳、同浅見澄子、同浅見利男等の各証言によつて、(執行当日、抗告人等は不在であつて、たまたま現場に居合せたものは抗告人側の雇人二人でありその後多勢の人夫が差押物件を含めて抗告人等の所有動産を屋外へ搬出しているという報せにより抗告人方の他の雇人……主として女中……が現場へ馳けつけて、「差押物件があるから注意してほしい」という言葉に耳も傾けず矢庭に打つ蹴る、殴る等の暴行を加え、各被害者に対して数日乃至数週間にわたる傷害を与えたことが認定できる)を認定しながら右述のように刑事上の問題であつて、本件執行々為取消の原因とならないと判示していることは前叙の民事訴訟法第五三六条、五四四条の法意を全く無視しているものである。よつて当然原決定は取消さるべきである。
三、更に事情として附言しておきたい点は
(イ) 本件執行の基本たる仮処分決定(断行命令)が発せられるにあたり抗告人側よりこれと相反する仮処分命令申請(抗告人等の本件家屋の使用を相手方において妨害してはならないという趣旨の)がなされその保全の事由がないものと思料されていたにもかゝわらず抗告人等を審訊することなしに発せられたこと………現に右決定に対して異議申立準備中で且本案の訴訟手続は現に京都地方裁判所において進行中………及、右仮処分決定をなした、裁判官と、本件執行異議の裁判官が同一人であること。
(ロ) 前叙のように本件執行をなした執行吏は、かねてより人夫と結托して、金品を収受しその為め最近逮捕せられて現に京都地方検察庁において取調中であること。
等を抗告審において特に御留意賜りたく思います。
<以下省略>